司会
まず、最近デジタルマーケティング領域ではアドフラウドや、フェイクニュース、SNSのステマなどの問題が起きていますね。こうした業界の問題は今後どうなっていくとお考えでしょうか?
佐々木さん
そもそも広告って何なのかっていうのをもう1回捉えなおしても良いんじゃないかってのを思ってるんですね。
結局アメリカなんかでも、色んな論者が広告の問題点を指摘していて、結局現状の広告って、消費者とクライアントと広告企業の3者それぞれがWIN-WIN-WINになってない。今のFacebookとかGAFAって言われる企業群の問題がそうであるように、データを一方的に奪ってしまって、それが直接本人にフィードバックされてないっていう。
だからそこをきちんと消費者の側も楽しめるっていうか、自分がそっから良いモノ得られたっていう実感が得られるような方向に持ってかなきゃいけないですよね。
小嶋
私は二十歳ぐらいからマーケティングに携わっていますが、当時この業界って純粋にめちゃくちゃ格好良かった。10年15年と働いてきたわけですが、デジタルシフトやSNSの普及に伴い、人々が情報を簡単に取得できるようになっただけでなく、発信できるようにもなりましたよね。
その結果、情報一つ一つの価値が下がってきていて、広告業界自体も疑義的な視点で見られることが増えてきた。「それ本当の情報?」って。マーケティング活動においてもとにかく商品が売れれば、そのプロセスは問わないというスタンスのマーケティング会社が現れてきてしまった。キレイじゃないクリエイティブや法律ギリギリのコンテクストなんかもそう。結果広告に疲弊している消費者も存在している。もう一度イケてる業界に戻していきたいですね
佐々木さん
結構どういう形で広告を出せば良いのか良く分からないって悩んでいる会社多いんですよ。
勿論大手の例えば日用品作るような企業だったりとか、とにかく情報を撒くことが良いっていう会社はそれでも大丈夫なんです。テレビの朝のワイドショー帯にドーンと広告出しているような企業っていうのはネットでも同じような手法で広告展開すれば良いわけで。
でもそうじゃない企業が、おんなじことをしてはいけない。その製品が好きだったのに、Facebookを見る度に同じ広告がディスプレイされるってことが起きてくると段々段々エンゲージが壊れていくわけですよ、うざいっていうね。
そこに対する悩みって結構深くて、結局何が問題なのかと言うと、今の広告指標そのものが物凄い物足りないじゃないですか。例えばいいね数とかRTとかそんなものは何もエンゲージを示してないわけでTwitterやFacebookでフォロワー数が多ければじゃあそのブランドを好きなのかっていうと決してそうでは無いわけですよね。本来その会社が好き、例えば日立製作所の大きな木のCM見たときに、ああ、日立って良い会社だなって我々が思う、その良い会社だなって思う気持ちみたいなものが数値として指標化されるということに未だ至っていない。これをやらない限り多分インターネットの広告がどんどんハイテク化していったその先に見えるものはないんじゃないかって感じがしているんです。
小嶋
わかります。デジタル領域では、コンバージョン数や、CPAといったKPIが設定されますよね。その結果、KPIを達成さえすれば方法はなんでも良い。という会社が増えすぎている。心が通ってないというか無機質。
マーケティングの深層部ともいえる、消費者とブランドのコミュニケーションについても同時に考えていかないと刹那的な施策に終始してしまい永劫的なマーケティング活動とはいえません。最近ではNPSなどエンゲージメントを計る数値も出てきてますが、NPSやCVをハイブリッドに見ることは非常に重要ですよ。ブランドと顧客の良質なコミュニケーションは、LTVにもつながりますから。
また、最近流行っているKOLなども同じです。フォロワーの数やいいね数といった表層的なものではなくて、この商品をホントに紹介するべき人が紹介しているのかが消費行動に移すかどうかの肝になってきています。データやテクノロジーの活用により、本当のファンを見つけることは可能です。
佐々木さん
そうですね。ちょっと前アメリカの記事なんですが、ニューヨーク大学か何かが調査をしてて今の20代の若者にアンケートを取ったらその記事が広告か広告で無いかってことを気にしている20代は極めて少ないっていうのが取り上げられていて。つまり自分にとって意味がある若しくは何かこれに繋がっていると嬉しいみたいな、そういうメリットみたいなのがあればそれが広告か広告媒体じゃないかってのはどうでも良い話に変わりつつあるんじゃないかなと思うんですよ。
日本人は広告か否かを皆気にしすぎているんですよね。広告業界の側がそもそも気にしすぎてて。だから例えば気にしすぎているからステマ問題とか起きるわけですよね。PRって入れると読まれないと思っているから入れないようにするって話になるわけで、入れてても読まれるし、ちゃんと理解してもらえるんだって自信を持てば別にPRちゃんと入れれば良いじゃんって話になるしステマ問題なんて起きなくなるとは思うんですよね。
司会
海外での世界的な潮流はいかがでしょうか、特に注目すべきはアメリカだとは思うんですけども。
佐々木さん
少し大きな話から入ると、マーケティングに限らず、データ経済の中で、データがあまりにもプライバシーを侵害していて、勝手に利用されているということに対する反発っていうのは日本とEUではすごく強いんですよ。だからEUはGDPRっていう一般データ保護規則っていう非常に厳しいプライバシーデータの取り扱い決めた法律を施行しているし、日本でもそれに追随する感じですよね。アメリカはわりとGAFAが強い力で押し切ってきたんですけど、去年かな、例のFacebookの情報流出事件、物凄いプライバシーに対する懸念が高まっているっていう状況が起きている。そうすると多分データを今までのようにガンガン収集してAIで解析してっていうことは前よりもやりにくくなってくるんじゃないかっていう懸念はされているわけなんですよ。
そこで出てきているのが中国なんですよね。BATとかBATHとか言われてますけど、Baidu・Alibaba・Tencent、+Huaweiぐらいで。特にTencentはWeChatを軸にして更にWeChat Payやその周辺にサブアプリみたいなのを幾らでも導入できる。巨大な生態系みたいなのを作るのに成功していて、一気に大きくなった、ああいう、WeChat Payとその周辺のエコシステムみたいなものが、プラットフォームの未来像なんじゃないかって。同じように今は我々Facebook、Twitter、Instagram、一応それぞれ別のプラットフォームにそれぞれマーケティングの施策をするみたいなことやってんだけど、そこは統合されていく可能性って出てくるんじゃないかなと思うんですよね。
小嶋
データの取り扱いに関してはアメリカ率いるGAFAと中国率いるBATHでは、考え方がまるで違います。ヨーロッパとアメリカはGDPR含めてデータに対して取り扱いを取り締まっていく方針が強い。一方で中国は寧ろ認証技術なども進んでいき、あらゆるシーンで個人情報が活用されています。政府の方針というのもありますが。
日本もデータの考え方として、データを提供することによって消費者がべネフィットを得られるサービスのみが受け入れられていくと思う。少し前にとある就活サイトで問題にもなりましたが、知らない所で勝手にデータを提供されていたり、個人に全くべネフィットが提供できないような企業側の自分勝手なデータ活用は難しいんですよね。最近日本でも情報銀行という言葉が出てきましたが、情報を提供する事により消費者がポイントや対価が貰えるとか、そういう仕組であるべきかなと。あの理論であれば提供したい人はすれば良いし、気持ち悪いなと思う人は提供しなければ良いという選択肢が生まれる。ちなみに中国でもこの考えは同じで、Alibabaであれば、信用スコアの芝麻信用にしても、宅配の盒馬鮮生にしても、ユーザは自分にメリットがあるからこそデータ提供を行い、結果的に広く普及しました。
佐々木さん
もう1点はプラットフォームそのものが凄い勢いで変化しているっていうのはあって、かつてインターネットが登場してプラットフォーム化していくっていう時に、垂直統合を破壊した水平統合だっていうことを言われたわけですよね。例えば出版だったら出版社がライターを抱え込んで自分の所で本を作ってそれを印刷会社に渡して出すっていう、全ての工程が出版社の中で完結していると。ところがそれが間にkindleとかが入ると完全に水平が分断されてしまって、縦が無くなっていく。これは音楽でもアプリでもあらゆる所に言える話で水平分離だって言われたんですけど、一旦水平分離したはずのプラットフォームが2010年代にAIとデータになってからもう1回垂直統合し始めてる。
要するに完全にプラットフォームを広くオープンにするんではなくて、その中でデータをぶん回してAIで解析することによって上流から下流まで自社で担ってしまうってことが可能になってきてるっていう。だからSpotifyとかNetflixみたいな所謂サブスクモデルが正に典型で、あるところでもう自社でドラマを作りそれを配信するまでを全て一括して、垂直統合しているわけですよ。水平統合と垂直統合が同時に行われるってことが起きていてそれは正に新しい形のプラットフォームなんですよね。ますますプラットフォームから逃れなくなってくっていう形にはなっていくんじゃないのかなあ。
小嶋
まるでファッション業界でいうSPAのような流れですね。この垂直統合は、あらゆる産業で進んでいて、マーケティングでも起き始めています。今までは、モノづくりのメーカーとそれを広めるメディアがそれぞれの役割を担っていましたが、最近では、影響力のあるインフルエンサーは自身が商品を開発してそのままマーケティングまで全部やりはじめてる。D2Cという言葉も頻繁に聞くようになりました。
頭良いなあと思いますが、インフルエンサーは、今まではメーカーから商品掲載の依頼をされて発信するメディア側の立場でしたが、だったらいっそのこと商品作ってしまえば良いと。自分でホントに好きなコスメとかドリンクをプロデュースする、そういう業界の新しい流れやディスラプトは、中国・欧米から始まり、日本でも今度顕著になると思っています。
司会
マーケティングのトレンド予測って以前はアメリカで流行った流れが日本に何年か後でプイっと入ってくるみたいな流れが。今もう時間差があんまり無いっていうか。
佐々木さん
90年代から2000年代前半ぐらいまでは、ローカライズが難しかったんですね。そもそもプログラムを書き直さなきゃいけなかったみたいな。今もうユニコード化されちゃったので、ローカライズ不要で色んなツールやアプリ或いはプラットフォームが入ってきてしまうと。そうするとタイムマシン経営ができなくなってるってよく言われてます。昔孫正義さんがよくタイムマシン経営って、アメリカで流行ったモノを日本に持ってくるっていう、あれが成立しない。リアルタイムで来てる感じはします。ただ、時代のトレンドみたいなものは少し遅れて入ってくるってのはあるかなあ。
例えばFacebook、Twitterみたいなああいうフィールド型のSNSは、日本で流行り始めたのが2011年ぐらい。アメリカからは2,3年遅れてるんですよね。その時代の感覚みたいなものは相変わらずのズレはあるなあ。
佐々木さん
日本は技術に対してあまりにも及び腰すぎる。データ活用、確かにプライバシーの侵害の問題は決してなくならないけれど、一方で何でもかんでも怖いと言っていたら、何も進まなくなる。もう少しそこは、前に進むようなことは社会全体として努力した方が良いんじゃないかと思いますね。前からずっと思ってるんですけどかつて日本は電子立国とか言われていましたが、技術に対する理解の仕方が間違っている。文房具だと思っているんですね、技術がね。
例えばエクセルって何のためにあるかって、あれは人間が持っている数値をデータ化して機械に読み込ませるために存在してるわけですよね。ところが日本人がエクセル使うとエクセル絵師で絵を描いちゃう、原稿用紙にしてたようなことが頻繁に起きるわけで、要するに手先を器用にするための道具としてITとかテクノロジーを使っているケースが多いのかな。
ホントのテクノロジーってそうじゃなくて社会を変える基盤である。技術力あるのにイギリスで産業革命起こして蒸気機関作っている時に我々日本人はからくり人形を作ってたわけですよ。そこはちゃんとテクノロジーに対する考え方は我々の社会の基盤であるってことを考えなきゃ行けないのかな。何かテクノロジー分からないのが格好良いみたいな変な風潮未だに残ってますよね、日本人に。スマホを持たない俺って凄いみたいな、それいい加減終わりにしてほしいなって感じがします。
小嶋
海外と日本のテクノロジーに対する価値観とギャップの大きさは埋めていかねばならない。日本のみんなが想像している以上にあらゆる国ではテクノロジーが発達しているという認識を持つことも大切ではないでしょうか。例えば日本では、2018年からPayPayを皮切りにキャッシュレス決済が普及し始めましたが、アフリカではそれより随分前からキャッシュレス決済が普通に使われていますし、スウェーデンでは、2015年頃から、数千万人が手にマイクロチップの埋め込み決済しています。他にも、日本では道交法の関係上なかなか普及していない配車アプリに関しても、アフリカでは救急車版Uberや物流版Uberなどが相次ぎ登場しユニコーン企業も出てきています。特に多くの海外スタートアップは課題から入ってテクノロジーによって新たな価値を提供して成功しています。
日本は良くも悪くも課題が多い国でない分、そういう発想が生まれづらいのかもしれませんが。
また、個人的に日本の法律も大きく影響をしていると思います。日本は、法律に定められてないような斬新な事業を始めようとした場合「法律に定められてないからNG」となります。反対に中国のようにユニコーン企業が多い国では、「法律に定められてないからとりあえずOK」となる。この規制の違いが、日本で革新的スタートアップが登場しづらい要因の一つではないでしょうか。
佐々木さん
そのとおりですね。1億2千万人、日本はよく小さな島国っていう風に言いたがるんだけど人口で言うと世界で6番目だか9番目だかで結構上の方。面積も意外に広いし。日本の経済成長って略人口ボーナスによって成立していたわけで、何か困ったことがあったらとにかく人間を沢山ぶち込めば何とかなるっていう、それがもはや少子高齢化で成り立たなくなっていくわけで、生産人口どんどん減っていきますから。
そこでもう1回技術との向き合い方を変えないと、人手不足と就職難が同時に進行するっていう。それはなぜかというと人が減っていくにも拘わらずミスマッチが起きている。旧来の仕事から新しい仕事に異動できないっていう。その2つを解消すればそんなに人口減怖くない。明治時代ぐらいまでは3千万人ぐらいしかいなかったわけですから。それでも富国強兵とかやってたわけで。いくらでも可能性がある、はず。
司会
最後に、これだけトレンドの移り変わりが速い業界で一体どういう人材が資質があると思いますか?
佐々木さん
今Adobeの新しいヤツありますよね、皆Adobe MAXとか一生懸命通って最新のツールを如何に使いこなすかってことに一所懸命になっていたけど、スキルがどうのこうのっていうよりも、そういう新しいテクノトレンドを如何に受容できるかっていう、そこのマインドを持っているところが大事なんじゃないか。
後コードを書く人達と話すと皆言うのは、言われてWebサイトのコードを書くっていう下請け的な仕事だともう生きていけないと。上流から下流まで全部面倒を見る人じゃないとダメだっていうので、結局提案とコミュニケーションができなきゃダメですよ。
あとは先を読む力というのは重要だなと。例えば、VRとかARとかやってきますよと、或いはもっと別の技術が出てくるかもしれない。それをある程度見越した上で次どういうトレンドに変わっていくのか、どういうプラットが出てくるのかっていうことを先回り先回りして見て、例えばじゃあVRが物凄い広がってOculusが4万円か5万円ぐらいで売ってますけど、あれが2万円ぐらいになって爆発的に普及して日本人1千万人がぐらいが使うぐらいになったらそれは大きな広告のプラットフォームになるわけですよね。その時どういう広告が成り立ち得るのかってとこまで頭の中でビジョンを持てる人っていうのは大事なんじゃないか。
小嶋
先を読む力、重要ですね。ここは経験の中で醸成もされるので、常に意識して業務をしていくと身についていきます。ちなみに、採用において、多くの企業が優秀な人を雇用したいといいますよね。それは当社でも同じですが、自分の中で優秀の定義を明確に定めています。
学生の時は地頭の良さとか勉強ができるが優秀の定義になります、これは学生時代に測る物差しの中心が学力であるから。しかし、社会人になった後の優秀の定義はまた少し異なると考えていて、当社ではどういう環境に身を置いたとしても、そこで全力で努力して期待を超える結果出せる人だと考えています。
情熱を持って真剣に頑張れる力、そして失敗した経験、努力して乗り越えた経験などが素質として最も重要。その仮定の中で自ずと知識は身についていきます。